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Community Based Rehabilitationの評価手法

Community Based Rehabilitation(地域に根ざしたリハビリテーション)は、障がい者個人を対象とした専門的支援を提供するのではなく、限られた地域資源を活用しながら、障がいのあるなしに関わらず、均等な機会を得られる、障がい者を含めた社会的包摂を実現するアプローチである。

中西由起子さんの「根ざしたリハビリテーション(CBR)の現状と展望」という論文では、CBRの意義として、①障がい者の生活の質の向上、②適正技術の移転、③地域社会の意識の向上、④障がい者のエンパワーメントを挙げている。具体的には、5つのカテゴリー・25の活動分野を自在に組み合わせながら、複合的な活動を行っていく。

概念が提唱されてから40年以上が経ち、現在100カ国以上で実践されている。

CBRが抱える問題

CBRが障がい者を含むコミュニティ主体で行う大前提を持つにも関わらず、”支援者”が障がい者を一方的な”被支援者”と見ており、計画・実施に障がい者自身が参画していないという批判がある。

また、一般化された評価指標がないために、エビデンスにもとづく評価がなされたCBRの事例が積み重なっていないことも指摘されている。確かに多くのCBR事例では、25の活動分野のうち、どの活動をどのように行ったかという点までしか記載されていないことが多く、果たしてその手法が有用であったか、他事業へ展開可能であったかなど、十分な評価と分析がなされていない印象が強い。

評価があったとしても荒いビフォー・アフター評価で、信頼に値するものはとても少ない印象だ。これはCBR事業だけでなく、ほとんどすべてのNGOの事業で当てはまることだろう(そういえば、前職で受けた地方行政の仕事はまったくといってよいほど、セミナーを何回やって何人参加したといったアウトプット記載に終止していた)。

ディーン・カーランが「善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学」で述べているように、その程度の評価をするのであればいっそやらないほうがマシというのも頷ける。

CBRの評価手法

一方で、実務者の立場からすれば、限られた予算と時間の中で、どうにか自分たちの事業が本当に成果を生んだのか調べねばならないし、そこまでして初めて受益者と支援者に対して責任を取ることになると思う。

CBRで活用可能な評価手法はどんなものがあるだろうか。

ひとつにWHOが2015年に発行した”Community-based Rehabilitation Indicators Manual”がある。CBRガイドラインにもとづいた事業を評価しましょうというものである。

この評価ガイドラインは次のふたつを目的としている。

Capturing the situation of people with disability in the communities where CBR is implemented.

Capturing differences between adults, youth and children with disability, and those without disability in the areas of health, education, social life, livelihood and empowerment.

具体的には5つのCBRカテゴリーに対して、健康状態への満足度や意思決定の機会があるかなど基礎的な指標として13項目と、より具体的な指標の27項目から評価する。またその指標に必要な情報を得るために、8つの基礎的な質問と、30の具体的な質問が設定されている。各指標と質問は簡潔でとても使いやすい印象だ。

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WHO(2015)Community-based Rehabilitation Indicators Manual, p4

また、男性・女性・男子・女子のそれぞれの分類を設け、障がいを持っている人と、障がいを持っていない人を比較するところも特徴だろう。

例えば、日常生活において大きな選択を自分自身で行ったかという設問に対して、それぞれの回答を比較する(下図参照)。すると、最も否定的な回答は女子であったものの、障がいのあるなしで比較すると、女性で最も大きな差がある。

つまり障がいとは別の理由で女子が脆弱な状況にあるものの、障がいあるなしによって女性が最も自己選択の機会を阻まれている。CBRが平等な機会を目指すのであれば、後者の差こそ小さくすることが成果として言えるのであろう。ただ、CBRはコミュニティの社会的包摂を促していくもので、結果的に女子の選択機会の向上にもつながると思われる(あるいは、女子と男子の機会選択の差異を問題としてみることもできるだろう)

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WHO(2015)Community-based Rehabilitation Indicators Manual, p35

簡潔で扱いやすい印象のある指標だが、CBRの成果をすべて捕らえるのは難しいだろう。基本的な手法と基礎的な設問を参照しつつ、事業独自の指標を追加し、カスタマイズしながら使うのが良さそうだ。

この他にも評価方法は様々なものがあるだろう。いずれにせよ、評価なしでは自分たちの事業が果たして有効であったか知ることはできないし、いくら事業の良い点を挙げようともそれは主観的な解釈でしかない。評価→改善→評価・・・と繰り返していく上に、信頼にたる事業が生まれていくのだろう。